内部配線を排除する「マザーボード型」Raspberry Pi用拡張ボードの設計手法
Raspberry Pi(ラズベリーパイ/ラズパイ)を用いた製品開発において、多くのエンジニアが最後に直面する大きな壁が「筐体への収納」です。
プロトタイプ段階では、必要な機能を持つ拡張ボードを何枚か積み重ね、足りない部分はジャンパ線で繋げば動作検証は可能です。しかし、それをそのまま製品化しようとすると、厚みが増しすぎて不格好になったり、内部配線が複雑すぎて組み立てやメンテナンスが困難になったりします。
本記事では、Raspberry Piを用いたデバイスをより薄く、より小さく、そして美しく仕上げるための「マザーボード型」拡張ボードの設計手法について解説します。
HATのスタックが引き起こす物理的な限界
Raspberry Piの標準的な拡張方法であるHATのスタックは、非常に手軽な反面、製品化においてはいくつかのデメリットが生じます。
- 厚みの増大:
1枚のHATを追加するごとに、スペーサーとコネクタの分だけ数センチ単位で厚みが増していきます。 - 熱の籠もり:
基板を密に積み重ねると、CPUや周辺チップからの排熱が妨げられ、サーマルスロットリングの原因となります。 - 耐振動性の低下:
コネクタのスタック構造は縦方向の振動に弱く、移動体や振動の激しい工場内での運用には向きません。
「製品として、もう少しスタイリッシュにしたい」「手のひらサイズに収めたい」という要望を実現するには、単にHATを重ねるのではない、別の設計アプローチが必要になります。
マザーボード型拡張ボードが実現する配線レス設計
小型化の決定打となるのが、Raspberry Piの拡張ボードをベースとして設計する手法です。これは、ラズパイの上に乗せる帽子ではなく、ラズパイ自体をコンポーネントの一部として捉え、すべてのI/Oや電源、特殊機能を1枚の大きな基板に集約する考え方です。
この手法を採用することで、以下のような変化が生まれます。
内部配線の排除
USB、LAN、HDMI、シリアル通信、電源入力などの端子を、筐体の外装パネルに合わせて最適な位置に配置できます。これにより、ケース内でのケーブル回しが一切不要になり、接触不良やノイズ混入のリスクを最小限に抑えられます。
基板の水平配置による薄型化
機能を縦に積み上げるのではなく、1枚の基板上に横に広げて配置することで、全体の厚みをラズパイ本体+αのレベルまで抑えることが可能です。
メンテナンス性と信頼性を向上させるレイアウト設計
Raspberry Pi をカスタマイズする際の真髄は、単に回路を繋ぐだけでなく、運用までを見据えたレイアウトにあります。
- 端子台の最適配置:
現場の配線作業者がアクセスしやすい位置に端子台やコネクタを配置できます。市販のHATでは端子の向きがバラバラになりがちですが、カスタム設計なら一方向に揃えることが可能です。 - ステータスLEDの可視化:
筐体の表面から確認できる位置にLEDやスイッチを配置し、ケースの窓開け加工と連動させることで、プロ仕様の外観を実現します。 - 絶縁距離の確保:
AC100V入力や高電圧リレーを扱う場合、適切な絶縁距離を確保したパターン設計を行い、安全規格に適合させることができます。
電源回路の統合とPoE対応によるメリット
小型化において意外と忘れられがちなのがACアダプタの処理です。 カスタム拡張ボードであれば、ACアダプタを排除し、DC24Vなどの産業用電源から直接給電できる回路を組み込むことができます。
また、LANケーブル1本で給電と通信を完結させる「PoE(Power over Ethernet)」回路をボード上に実装すれば、設置場所の制約が大幅に緩和され、システム全体のシンプル化に貢献します。
構想段階から相談できるアイディアイの伴走支援
「ラズパイを使って製品を作りたいが、どうすればこのサイズのケースに収まるかわからない」 そんなお悩みに対し、アイディアイは電気回路設計と物理的な基板レイアウトの両面から最適な解決策を提示します。
特に最近では、より小型化に適した「Raspberry Pi Compute Module 4/5」をキャリアボードに搭載するカスタマイズのご相談も増えています。私たちは、お客様の製品イメージを具現化するために、どのような拡張ボードが最適か、試作から量産までを一気通貫でサポートいたします。をお考えの皆様、是非当社にご相談ください。
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