組み込みソフトウェア開発におけるベアメタル開発の難しさ
当コラムでは、組み込みソフトウェア開発におけるベアメタル開発の難しさついて紹介します。

なぜ「ベアメタル開発」は難しいのか
組み込み機器の開発において、OSを使用せずにマイコンを直接制御する「ベアメタル開発」は、軽量・高速・高い信頼性を実現できる手法として広く知られています。一方で、そのメリットを享受するためには、開発者がハードウェア構造を深く理解し、動作のすべてを自ら設計・実装しなければならず、一般的なソフトウェア開発とは異なる難しさを伴います。OSが提供する抽象化やタスク管理・メモリ管理などの機能が存在しないため、制御の一つひとつがプログラマの責任となり、それがシステムの品質や再現性に直結します。
また、ベアメタル開発は開発効率よりも制御精度や安定性を優先する場面で採用されますが、その裏側では、設計上の選択を誤ると製品全体に影響が及ぶ可能性があります。特に、マイコンの種類や周辺回路に応じて動作が大きく変わるため、OSを用いた開発に比べて再利用性や移植性が低くなる傾向があります。こうした事情から、経験値の差が品質に反映されやすく、属人化リスクも高い領域と言えます。
このように、ベアメタル開発は非常に強力な手法である一方で、難しさも数多く存在します。
設計段階での難しさ
ベアメタル開発において最初に直面する難しさが、設計段階でのハードウェア依存の高さです。OSが存在する開発であれば、デバイスドライバや抽象化レイヤによってハードウェアを意識せずにプログラミングできる場合があります。しかしベアメタルでは、CPUアーキテクチャ、レジスタ構造、クロック設定、電源管理、周辺回路の動作などを詳細に理解しなければ、正しく動作するプログラムを構築することができません。
また、割り込みの優先度設計や各モジュールの同期方式など、システム全体の振る舞いを事前に厳密に設計しなければならず、ここでの判断が後のバグや動作不良の原因となることも珍しくありません。特に、組み込み製品では複数の機能が同時に動作するため、状態遷移設計や異常時のフォールバック動作を明確に定める必要があります。設計の曖昧さはそのまま実装段階の混乱につながり、後工程での修正コストを大幅に増やしてしまいます。
さらに、ベアメタル開発は移植性の低さも課題となります。ハードウェア依存が強い構造となるため、マイコン変更時には多くのロジックを書き直す必要が生じます。設計段階で移植性を意識して抽象化を行う方法もありますが、その分だけ設計難易度が上がります。
このように、ベアメタル開発は設計フェーズから高い技術力が求められ、経験が製品品質に現れやすい領域と言えます。
実装・デバッグ段階での難しさ
設計段階だけでなく、実装とデバッグの工程でもベアメタル開発特有の難しさが存在します。まず、OSが提供するタスク管理が存在しないため、全ての制御を割り込み、状態遷移、ポーリングなどで実現する必要があります。制御の組み合わせが複雑になるほど、タイミング依存バグが発生しやすくなり、原因の特定が困難になります。
動作ログを取得するにも、UARTやメモリ容量の制約があるため、一般的なアプリケーション開発のように詳細なログを残すことは困難です。特に、割り込み処理のタイミングが絡む不具合やレースコンディションは、実機でしか再現しないことも多く、開発者はロジックとハードの両側面から原因を推測しながら検証を進めなければなりません。
また、シミュレーション環境では確認できる範囲に限界があり、多くの場合、実機検証が必須になります。実機検証では周辺回路や電源ノイズ、通信状態の変動なども影響するため、ソフトウェア単体では判断できない問題が発生する可能性もあります。
さらに、一度不具合が発生すると、OSが存在しないため「どの層の問題か」が切り分けにくく、原因究明に長時間かかるケースもあります。これらの理由から、ベアメタル開発は実装力とデバッグ力の両方が強く求められる領域であり、経験値の差が開発効率に大きく影響します。
保守・拡張における難しさ
ベアメタル開発の難しさは、製品リリース後の保守や機能拡張の工程でも顕著に現れます。OSを用いない構成では、抽象化レイヤが存在しないため、コードの結合度が高く、機能の一部を変更しただけでもシステム全体への影響を慎重に評価しなければなりません。特に、割り込みや時系列で制御される処理は、わずかな修正が動作タイミングに影響し、予期せぬ不具合につながることもあります。
また、ベアメタルで構築されたシステムは、設計思想や実装方式が開発者ごとに異なる傾向があり、属人化リスクが高い点も大きな課題です。後任の開発者が読み解きにくいコード構造になっている場合や、コメント不足、モジュール分割が曖昧な場合、保守コストはさらに増大します。
製品ライフサイクルが10年以上に及ぶことも珍しくない組み込み機器開発では、長期的な保守性を確保することは非常に重要です。しかし、初期段階で保守性を見越して設計しておかなければ、後から修正するほど困難になります。OSベースの開発とは異なり、ベアメタルではこうした構造が自然と発生しやすく、特に拡張フェーズで大きな壁となります。
難しさを乗り越えるためのアプローチ
ベアメタル開発が抱える設計・実装・保守の難しさを解決するためには、開発プロセスそのものの最適化が不可欠です。例えば、初期設計段階では状態遷移図やシーケンス図を活用し、割り込み設計や優先度制御を明確に整理しておくことで、後工程における混乱を大幅に減らすことができます。また、コード生成ツールやテンプレートプロジェクトを利用することで、開発者間の実装のばらつきを防ぎ、属人化リスクを低減できます。
さらに、実装時には静的解析ツールやモデルベース開発(MBD)の活用も有効です。特に、タイミング依存のロジックが多い場合、設計段階でモデル化しておくことで、後工程でのデバッグ効率を高めることができます。また、JTAGやSWDなどのデバッグ環境を整備し、レジスタ単位の動作検証ができる体制を構築することも重要です。
加えて、ベアメタル開発ではハードウェアとソフトウェアの両領域に精通した技術者が必要です。マイコン内部構造や周辺回路、電気的特性を理解しながらコーディングできる開発チームが存在することが、品質と効率の両立に繋がります。
アイディアイでは、ベアメタル開発に精通したエンジニアが在籍しており、設計から実装・検証まで一貫支援が可能です。ベアメタルの強みを最大限活かしつつ、難しさを解消する開発体制を整えています。
技術力がベアメタル開発の品質を決める
ベアメタル開発は、軽量で高速な制御を実現できる一方、設計・実装・保守のすべてにおいて高度なスキルが求められる開発方式です。OSの支援がないため、開発者の理解度や設計判断がそのまま製品品質に反映される点は、他のソフトウェア開発方式と比較しても特に難易度が高い部分です。
しかし、その難しさを乗り越えることができれば、ベアメタルは製品性能を最大限引き出す強力なアプローチになります。ハードウェア特性を深く理解し、正確で堅牢な制御を実現できる技術力こそが、ベアメタル開発の鍵となります。
アイディアイでは、ベアメタル開発の高度なノウハウを活かした開発支援を提供しており、制御品質・開発効率・長期運用性を両立した組み込みソフトウェアを実現しています。ベアメタル開発に課題を感じている企業様や、新規開発を検討されている場合は、ぜひご相談ください。
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